遺伝子と体質
「DNAは変わらないから、生まれつきの才能や体質は変えようがない」がこれまでの常識でしたが、本当にそうなのでしょうか?
一卵性双生児の場合、遺伝的には全く同一です。
一見、同じような体質になりそうですが、
一人は重病(癌など)になったが、もう一人はならなかった。
一人は鬱病になったが、もう一人は正常だった。
一人は異性が好きだが、もう一人は同性が好きだった。
などなど、異なる点も多い事が分かっています。
また、アメリカのクローン猫の実験では、全く同じ遺伝子を持つはずの二匹の毛色や性格が違っていたそうです。
何故なのでしょう?
遺伝子スイッチ
私たちヒトは、2万個以上の遺伝子を持っています。
それらが全て無秩序に発現していては大混乱になってしまいますので、必要な部分だけが活性化するように制御する仕組み、「遺伝子スイッチ」が備わっています。
つまり、遺伝子自体は全く同じでも、個々の遺伝子発現(スイッチON・OFF)には、一卵性双生児といえども個人差があるという事です。
では、どうすれば有用な遺伝子を発現させる事ができるのでしょう?
長寿遺伝子
老化に関係し、長寿遺伝子とも呼ばれるサーチュイン遺伝子。
この遺伝子は全てのヒトが持っているのですが、残念ながら普段はOFFになってしまっています。
この遺伝子を活性化させる鍵は、「摂取カロリー」にあり、空腹状態を保つ事で発現しやすくなります。
具体的には、「カロリー摂取を、必要とされる量の70%に押さえ、その状態を7週間以上続ける」と発現するそうです。
この様に、遺伝子と生活習慣や環境の関連性を研究する学問分野を、「エピジェネティクス」といいます。
適材適所の謎
およそ37兆個の細胞からなる、私たち人間の体。
DNAは全ての細胞で共通なので、1種類しかないはずですね。
ある細胞は皮膚になり、ある細胞は骨になり、ある細胞は・・・
どうしてうまく様々な細胞が「適材適所に」出来ていくのか、不思議に思った事はありませんか?
遺伝子の意味付け「エピゲノム」
まるで糸巻きのボビンの様に、DNAを巻き付けて安定させている「ヒストンタンパク質」。
実はこのヒストンの化学的な変化こそが、DNAから様々な情報を引き出すカギになっています。
これは遺伝子スイッチのON・OFFそのものであり、遺伝子に意味と役割を与えています。
「全ての遺伝情報」を表す「ゲノム」という言葉はご存じだと思います。
「ゲノム」はDNAの物質的な面を、「エピゲノム」は意味的な面を表す。と考えると分かりやすいでしょうか。
そして、エピゲノムは生きている限り変化していきます。
病気とエピゲノム
以前は、癌はDNA自体の変異が原因だと考えられていました。
しかし最近の研究では、エピゲノムの変化、つまり遺伝子スイッチのON・OFFでも細胞が癌化する事が分かってきました。
他にも、
タバコの影響で食道細胞のエピゲノムが変化する。
ピロリ菌の影響で胃細胞のエピゲノムが変化する。
などの事例も確認されています。
悪化する方向に変化できるなら、良くなる方向にも変化できるはず。
食生活や環境を正し、エピゲノムを良い状態で保つ事が、癌などの難病予防に繋がっていくと思います。
薬剤師 西田稔生