「臓器」に近い存在
私たち人間の腸内には、約1000兆個の腸内細菌が住み、「腸内細菌叢(腸内フローラ)」という集まりを形成しています。
叢は、「くさむら」という意味です。
重さにすると、実に1kg~1.5kgになります。
臓器の中で一番重い肝臓と、ほぼ同じ重さの腸内フローラ。
もはや一つの「臓器」と言っても過言ではありません。
子供のアレルギー率
乳幼児の10%、学童期の5%程度が発症しているといわれる食物アレルギー。
未発症数まで含めると、実に30%近い乳幼児がアレルギーを持っているそうです。
しかし、なぜ同じ食べ物を食べても、アレルギー症状が出る子と出ない子がいるのでしょう?
遺伝か環境か
以前は、遺伝的な体質の差と考えられていましたが、徐々に環境の重要性が認識されるようになってきました。
帝王切開による出産はアレルギーが多い、母乳により食物アレルギーを防げるなどの研究報告も数多くあります。
その中で、特に重要なのが食事内容や腸内フローラとの関係です。
腸内フローラと肥満
肥満症のマウスと痩せ型のマウスの腸内細菌を、まるごと入れ替える。
こんな大胆な実験があります。
その結果、なんと肥満症だったマウスは痩せ型に、痩せ型だったマウスは肥満症になったそうです。
腸内細菌以外の生育環境は全く同じです。
腸内細菌叢の構成が、生体全体にいかに多くの影響を与えているかが分かりますね。
腸内フローラと性格
精神を安定させ、満足感を感じさせる物質「セロトニン」
脳内に多くありそうに思いますが、体内で作られる量の内、95%は腸で作られています。
同様に、性格的に積極型のマウスと消極型のマウスの腸内細菌を入れ替えた実験では、積極型だったマウスは消極型に、消極型だったマウスは積極型にと、性格が入れ替わってしまったそうです。
漢方医学でも、うつ病の改善を腸から行う事もあり、納得できる実験結果です。
逆に、自立神経の不調が腸内環境に影響を与え、腸内フローラが変化するという事もあると思います。
腸内細菌と病気・治療
では、腸内細菌学の人間への応用はどうなのでしょうか?
アメリカで年間約3万人も死亡している、「クロストリジウム・ディフィシル菌」による感染症。
抗菌薬が効かない、やっかいな感染症です。
この感染症の治療に、健康な人の糞便を感染者の腸内に入れるという、「糞便移植」という方法が既に行われていて、成果をあげています。
個々人によって全て異なる、腸内フローラの構成細菌。
私たちの体質の多くの部分が、腸内細菌によって決定されています。
良い腸内環境を作る為にも、バランスの良い食事を心掛けてください。
薬剤師 西田稔生